20TH ANNIVERSARY

JOURNEY

20年の軌跡

TITLE

迷惑施設から集客施設へ大転換
空港のあり方を変えたセントレア

PROFILE

佐藤 言夫

『月刊エアライン』元編集長

1969年生。早稲田大学卒。他業界を経て1998年にイカロス出版へ入社し、2002年に『月刊エアライン』編集部に配属。以降、2006〜2009年に『月刊エアライン』、2010〜2023年に『季刊 航空旅行』の編集長を務めるなど、航空関係の雑誌・書籍を中心に編集業務に携わる。セントレア開港日も『月刊エアライン』編集部の一員として取材にあたった。

CHAPTER.01かつての空港にあった近寄りがたい雰囲気

2005年2月17日は今も記憶に残る日だ。開港したばかりのセントレアを取材するため、当時『月刊エアライン』編集部の一員だった筆者はカメラマンらとともに早朝からターミナルビル内を駆けずり回っていたからである。

セントレアは21世紀に入って初めてオープンする大規模国際空港だったため、開港前から注目度が高かった。しかし、その真価は開港以降にこそ見出せるのではないかと筆者は考えている。ハード・ソフトの両面で従来常識を打ち破るコンセプトや発想が、その後の全国の空港のあり方に多大な影響を与えたからだ。

現在、日本には5つの海上空港があり、セントレアは長崎、関空に次ぐ3番目の海上空港である。セントレアの開港翌年には神戸と北九州にも海上空港がオープンした。近年の新空港に海上空港が多い理由は単純明快で、陸地に造られる空港に比べて周辺地域への騒音の影響が少ないからである。

1960年代に入ると日本のエアラインでもジェット旅客機を運航するようになり、1970年代から80年代には地方空港も次々とジェット化していった。これにより空の旅は高速化が一気に進んだ反面、当時のジェット旅客機は現代の新鋭機と比較にならぬほどエンジン騒音が大きかったことから、空港周辺の公害が深刻な社会問題となった。こうして民間航空業界が著しい発展を遂げる一方、空港は「迷惑施設」として敬遠される存在となっていったのである。

一部の空港では騒音公害を理由に廃港運動が起こったり、空港新設計画に反対する声が挙がったりすることもあったため、空港管理者の側に「用事のある航空旅客以外は空港に来てほしくない」という心理が多少なりとも生じたのは否めない。安全性の確保やテロ警戒などの理由でもともとセキュリティ水準が高いこともあり、一部の空港にはどこか近寄りがたい雰囲気もあった。

一方で、ジェット化進展に伴う空港の新設、移転、拡張などが進んだ結果、経営的に苦戦する空港も増えてきた。空港は社会や地域の重要インフラであることから国が主導して建設されることが多く、一般的な商業施設などと比べると営利事業としての側面がいささか軽んじられていたのも空港経営の悪化を招いた背景の一つだろう。しかし、高度成長が終焉し、バブル経済も弾けた1990年代以降は、政府や自治体の財政を圧迫する空港の赤字問題が徐々にクローズアップされることになった。

CHAPTER.02非航空収入を重視した斬新な経営戦略

こうした中、当初から民間主導で建設されたのがセントレアである。空港会社では公平・公正な競争を前提とした市場価格の導入促進や施工方法の見直しなどにより、当初予定の7,680億円よりも1,000億円以上安い約6,400億円まで事業費を圧縮することに成功した。初代社長を努めた平野幸久氏によると、これは単に予算の無駄を省くだけでなく、できるだけ債務を縮減して開港後の経営安定を図る狙いがあったという。建設から開港後の運用まで一貫して民間企業である空港会社が担ったからこそ醸成できた経営感覚といえるかもしれない。

そして、セントレアの経営戦略で何よりも斬新だったのは、開港前から「非航空収入」を収益の柱の一つに据えていたことだ。非航空収入とは、エアラインが空港管理者に支払う着陸料や駐機料、旅客が航空運賃とともに支払う施設使用料以外の、主に直営商業施設の売上やテナント料などから得られる収入を指す。

「用事のない人にはあまり来てほしくない」という従来的な空港管理者の発想とは真逆に、セントレアでは高い集客力のあるレジャー施設として空港の可能性を追求した。人々がレジャーに求める要素の一つは「非日常性」だが、セントレアでは航空機の発着風景こそ非日常性の象徴であるとして、公園並みの広さを持つ展望施設のスカイデッキを整備。商業ゾーンのスカイタウンは和風の「ちょうちん横丁」、洋風の「レンガ通り」で構成される風情ある“街並み”やクオリティの高い店舗などが大評判を呼び、開港当初は連日多くの観光バスが押し寄せるなど空前のブームを巻き起こした。

単にハード面を充実させただけでなく、数多くのイベントを開催するなどソフト面にも注力した。空港を観光資源としたイベントの一つが「セントレア見学ツアー」で、当初はターミナル館内の見学が中心だったが、2009年6月には「セントレアまるわかりツアー」に名称を改めるとともに「滑走路見学コース」を設定。これはバスで制限エリア内を巡り、滑走路脇で降車して離着陸シーンを眼前にできるというもので、現在も続いている。空港内バスツアーは関空でも行われていたが、滑走路脇で降車できるようにしたのは「セントレアまるわかりツアー」が初めてだった。

こうした戦略や取り組みは見事に功を奏し、初年度の一般来港者が航空利用者の数を超える約1,300万人に達するなど、セントレアは非航空収入の拡大に成功した。「迷惑施設から集客施設へ――」、これはまさにコペルニクス的転回だ。そして、このセントレアの成功が、以降の全国の空港経営に大きな影響を与えていくことになる。

そうした影響のわかりやすい例が2010年に開業した羽田空港の第3ターミナル(T3)だ。国際線旅客を迎えるこのターミナルは和風テイストの商業施設が特徴的だが、その雰囲気からスカイタウンの「ちょうちん横丁」を連想した人は少なくないだろう。羽田T3には、以前の空港にあったような実用性重視の無機質さが感じられない。

空港内の商業施設といえば、かつては和洋中なんでも食べられるような、あまり特色のない飲食店や品揃えが限られる売店が多かったものだが、最近では飲食・物販とも有名店や専門店の出店が当たり前になった。その土地の名物や郷土料理を前面に押し出した個性的な店舗も珍しくない。スカイタウンを造るにあたっては、空港会社がコンセプトに合う事業者をリサーチし、一軒ごとに出店交渉をしたというが、「単に飲食の場を提供すればよい」といった安易な考えは開港前からなかったのだ。

CHAPTER.03「ファン・フレンドリーな空港」として高評価

世界的には珍しいことながら、日本ではほとんどの空港が屋外型の展望施設を備えている。ただ、かつては少額ながら有料入場制を採る空港が多く、展望デッキが賑わう空港はあまりなかった。セントレアの影響とばかりは言えないものの、現在は大半の空港で無料化されており、展望デッキを集客施設として捉える空港が増えた結果だと推察できる。

一方で、明らかにセントレアの影響だと断言できるのが、スカイデッキに設置されたワイヤー式フェンスだ。不審者の侵入や異物投げ込みを防止するため、展望デッキにフェンスを設置する空港は珍しくなかったが、2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ以降はセキュリティがさらに厳格化された。2005年に開港したセントレアも、当初は手すりのみにしたいと考えたが、航空当局からの許可が得られずフェンスを設置。しかし、ここでも工夫を凝らし、従来の空港展望デッキで一般的だった金網式ではなく、口径が大きめのカメラレンズでも通しやすいようにとの配慮からワイヤー式フェンスを初採用した。レンズを通す隙間がなかったり、少ないレンズ用の穴を取り合ったりした経験のある撮影派の航空ファンからは称賛の声が続々と挙がり、「ファン・フレンドリーな空港」としてセントレアの評判を大いに高めることになった。ワイヤー式フェンスは撮影しやすいだけでなく、高い開放感をもたらすことから航空ファン以外の一般来港者にも好評で、その後は全国の空港で採用例が相次いだ。2009年には子供や車椅子利用者でも眺めやすいよう、一部の手すりを低くするなどの改良も施された。

セントレアの影響はソフト面でも広がり始めた。前述のバスツアーと同様のイベントは最近の成田空港でも実施されるようになったが、同空港では10年ほど前までターミナルに入るだけでも身分証の提示が必要だったことを考えると隔世の感がある。セントレアに就航する航空機を撮影テーマにした「セントレアフォトコンテスト」は2006年から開催しているが、近年はフォトコンを実施する空港も増えてきた。

セントレアは「航空機を眺めやすいスカイデッキやボーイング787を展示したフライト・オブ・ドリームズ(フラドリ)へ遊びにくる→スカイタウンやフラドリ内のシアトルテラスで飲食したりショッピングしたりする→非航空収入が増加する」という循環を確立した。こうした好循環を自分たちでも実現したいと、他空港がセントレアを手本にしようとしたのは自然な流れといえる。全国の空港で運営主体の民営化が急速に進んだこともこれに拍車をかけている。

ただ、施設などのハード面はその気になれば模倣できるが、来港者の満足感を高めるにはソフト面も含めて空港内体験を充実させるアイデアと継続的な施策が必要だ。だからセントレアは「CX(顧客体験価値)」の推進を掲げてきた。夏になると地域の要望に応えてスカイデッキでの盆踊りまで開催されているが、「セントレアならやってくれる――」、そんな期待が地元住民や航空ファンから向けられているようだ。セントレアが空港のあり方を劇的に変えながらも、なお他空港の追随を許していないように見えるのは、そうした期待に応えようとする姿勢に揺るぎがないからだろう。

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